手を引かれて

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 動き出した電車の窓を一瞬見てみれば、呆けたような少女の顔が目の奥にこびりつく。あの瞬間覗き込んだ瞳の奥の色が、異常な鮮明さでフラッシュバックした。とても誰かと共有し難い音楽を耳から脳に流し込んで、僕は不快感に酔っておく。そうでもしなければ、何かが壊れていくような恐怖があった。  僕が、必死で逃げ出して築き上げた何か。今を、この先を、それなりにこなしていくための準備。それの意味も、この先を生きる価値も見出せないままに、ただ怯えて──違う、違うはずだ。  悪い夢は、また現れる。 吐き出してしまいたいような8時間を過ごした後、平穏な日常を打ち壊す怪獣の様に、少女は駅にいた。 夕方の日差しが明るめの茶髪を照らし、どこか既視感のある彼女の瞳は遠くを見ていた。そぐわない、というのは僕の偏見であることは間違いない。だけど、その服装や顔つき、外見から感じる印象と余りにもかけ離れた雰囲気を放つ。少なくとも、僕はそう感じた。  シャットアウトのままで通り過ぎれるとは思っていなかったけど、とりあえず改札へと足を速めた。でも、知ってた。逃げきれないなんて、そんな直感は綺麗に的中する。 「あのさ」  無遠慮にかけられた声が自分あてだということは、僕がよく知っている。後に続く数人の『他人』ではない、僕に向けられた意志ある声。欲しくなかった。面倒だった。だけど、このまま通過することは出来ないような気がして僕は速めた足を止める。ぎこちなく振り向いた先には、古びたベンチから立ち上がった彼女がいた。     
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