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北条達のいた部屋は、その割烹の中でも、お得意さまをお連れする用の高級なお部屋だった。
畳のその部屋の奥に座っていたのは歳の頃は、北条より少し歳上くらいの男性。
その人はネクタイも緩めず、日本酒に口をつけていた。
少し長めの前髪をオールバックにあげていて、整った端正な顔立ちをしている。
急に入ってきた、二人に驚いたようだった。
「蓮根先生!なんと、高槻さんですよ!研修があって本社に来ていたようで、偶然飲んでいたところを捕獲してきました。」
捕獲て…。
ん?
蓮根先生?!はぁ?あの人じゃん!
結衣の頭の中で情報がいろいろと繋がる。
先生、と呼ばれるその職業。本社の営業と直の顔見知り。
そして、先日、結衣が直に対応していて、名前はその名前。
え?!え?!えーーーーっっ?!
「え…。」
ちょ…ちょっと、無理無理無理ーっ。
なんでこの人は、いつも心の準備のない時に……。
北条の期待に満ち溢れた表情を見て、逃げられない…と結衣は察する。
ふっと息をついて、結衣は腹をくくり、お仕事用の声を出す。
「お世話になります。高槻結衣です。先日は失礼いたしました。」
「あ、こちらこそ。」
やばっ!この声だ。
下げていた頭をふとあげると、冷たく整っていた表情が柔らかく微笑んで、結衣を見ている。
印象悪くないのは本当のようだ。
それを見て、結衣は少し安心する。
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