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1.先立つものは大事
「高槻さん、社員希望だったよね。」
定例の期初の面談。
高槻結衣は上司にうなづいた。
「そうですね。」
身長は平均くらいだろうか158センチほど。
どちらかと言うと童顔、の大きな瞳とサラリとしたロングの髪。
この保険会社に勤め始めてからは2年になる。
今の結衣の立場は契約社員。
正社員になれれば言うことはない。
そもそも、仕事内容は、正社員と変わらない内容の業務をしているのだ。
結衣は保険会社で査定と呼ばれる、支払い業務を担当している。
査定というのは、実際に事故が発生した際、契約者にお金を支払う専門の部署だ。
それなりに大変な部署ではあるが、お礼を言われることも多く、やりがいはあると思っていた。
困っている人を助けているという実感もある。
上司が書類から顔を上げた。
「社員、なれるけど、今はSVでお願いするかな。」
ん?エスブイ?
「優秀なSVは少なくて。君ならなれるんじゃないかと思って、推薦しといた。」
えっと…えすぶい、とはー…
「スーパーバイザーだよ。」
それ、コルセンじゃん!
保険会社における、コールセンター、それは時間勝負と言われている。
事故でパニックを起こしたお客様をなだめ、車両移動の手配をし、対応するサービス課に連絡をする。
場合によっては救急車や警察も手配する。
サービスがすぐ連絡してくれれば良いが、サービスもありとあらゆる仕事をしており、後回しになってしまうと怒り狂った契約者から、電話が来ない!と鬼のようなクレームになると聞いたことがある。
たとえ、サービス課のミスでも、お詫びするのはコールセンターだ。
保険会社のある意味、最前線。
「SVが直接コール取るわけじゃないからね。」
「でも、怒り狂って電話してきてる方が更にヒートアップしてて、上司出せやぁ、こるぁ!とか言ってるところに出る訳ですよね?」
「そうとも言うかな。でも、君なら大丈夫だから。」
だから!根拠は?!
「でも、私、未経験ですよ?!」
「だって、今でも難しい案件とか交渉してるし、基本的に電話のやり取りなのは変わらないし、未経験と言っても保険ってものは理解してるでしょう。
これで新たに人を社員として入れる方がリスクなんだよね。会社としては。それに君はお客様からもお褒めの言葉とか頂いてるでしょ。」
高槻さん、と上司は真顔になる。
「黙っていたけど、君クラスだと年収が100万くらい変わる。」
「マジすか…」
結衣は、安い給料でこき使われていたのかと思うと、目の前が黄昏てくる。
「やりましょう。そのSV。」
100万に釣られた訳じゃない…多分…。
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