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精霊も楽じゃない。
僕の右隣を、ホットドッグを抱えた少女が歩く。
僕の後ろに、ゴーグルを上げた少年が続く。
二人だけは僕を目で追う。
他の誰にも僕は見えない。
二人とはさっき知り合ったばかりだが、既にそれなりに打ち解けていた。
もっとも、出会った瞬間は、互いに驚いたものだが。――恐らくは、彼らの方が余計に。
A「精霊さん、寒くないですか?」少女が訊いてきた。
「ええ、精霊ですし。それに後ろの彼からマフラーと外套を借りましたから」と僕は答える。
おかげで彼は、耳あてのついた帽子とジャケットというやや軽装で、冬の街を歩いている。
B「仕方ないでしょう。俺たちにしか見えなくたって、裸ってわけにはいかない」少年も言ってきた。
「いや裸というか、精霊なので、身も蓋もない話、服とか寒いとかいう概念がですね」
B「俺たちにあまり文句言ってると、連れて行きませんよ。飛行機に乗りたいんでしょ?」
「す、すみません。君は随分若いのに、軽飛行機のパイロットとは凄い」
B「親方から仕込まれてきただけですよ……っておい!? お前、俺の弁当食べてないか!?」
少年は血相を変えて、少女の持つホットドッグに目を剥く。今まで死角になっていて、気付かなかったのだ。
A「いいじゃない、どうせ食べるんだから」
B「俺がな!? これから四時間近く飛ぶんだぞ! お前は乗ってるだけだろ!?」
二人は幼馴染らしく、互いに遠慮がない。
これから二人乗りの軽飛行機で、さらに北の町へジャムの仕入れに行くという――年若くとも労働者というわけだ。
僕はそれに乗せてもらう予定だった。
そしてもう戻らない。
この街で、雪の精霊として辺り一面を白く染め抜くのは、今年が最後だ。
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