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少女が僕の顔を覗き込んできた。
A「精霊さん、やっぱりこの街にいられなくなるのは、ひどく増えた工場のせいなんですか?」
石畳を、自動車が走る。電車の駅も近い。
ガス。蒸気。発展の炎。動力の革命。街の全てが、毎年、少しずつ温まって行く。
「すみません。それだけではありませんが、それもありますね」
A「私、なんだか寂しいです。ここにもう雪が降らなくなるなんて」
「そう言っていただけると僕も嬉しいです。厄介者扱いされることが多いので」
B「俺たちの他に、あなたが見える人はいないんですか」
「昔はもう少し多かった気もしますが、最近はとんと。君たち二人が、十年ぶりくらいに言葉を交わした人間です」
やがて僕たちは、街外れの私設飛行場に着いた。
前後の席に一人ずつ乗りこむ形のコックピットで、僕と少女が後部に座る。揃って体格が小さいせいで、なんとか二人入れた。
B「俺は前の操縦席がいいんで。後部にも操縦桿はついてますし、重い人間が後ろの方が安定するんですが、前がいいんです」
「すみません、僕は精霊なので体重とかないもんですから、後ろが軽いです」
飛行場の職員にも手伝ってもらい、複葉機のプロペラが勢いよく回り出す。
雪をのけた滑走路を走り出した僕たちは、すぐに大空へ舞い上がった。
A「私、この瞬間が一番好き。凄い凄い」
「本当ですね。素晴らしい」
B「俺の腕だからね、これは」
上昇を終えると、複葉機は水平になって安定した。
僕のすぐ近くで、激しく躍動するエンジンを感じる。
直接的に高温であぶられるわけではないけれど、強烈な炎の気配を感じると、雪の精霊である僕の体は空中に溶けていく。
既に僕の両足はなくなってしまった。そして逃げ場もない。僕の望み通りに。
隣の少女も、まだ僕の異変に気付いていない。
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