《6》

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 結局3日も会社を休んだ私は、土日を挟んで5日ぶりの出勤だった。  正確に言うと今日も午後からの出勤にさせてもらったから、事務所に来るのは5日と半ぶりだった。  カードを翳して事務所の中に入る。迷惑をかけたお詫びとして配ろうと思い持ってきたお菓子の紙袋が思いのほか嵩張って邪魔だった。  まだ昼休みはあと15分残っており眠っている人も多いだろうから、そっと扉を閉めた、その時。  ぼそぼそと人の話す声が聞こえてきた。 「昨日ラインで教えていただいたカフェ、どこもお洒落でケーキも美味しそうでした」 「だろ? あれは全部俺のおすすめだから」  松田さんと、その隣の席に見慣れない女の子が、1人。 「課長もおっしゃってましたけど、松田さん、本当に甘いもの好きなんですね」 「まぁね」  状況が理解できなかった。それでも努めて冷静に、私は自身の席へと足を進める。でも次の瞬間、嫌な予感は確信に変わる。  すれ違いざまに見た松田さんの表情は、今まで私が見たことのないものだった。  きっと誰よりも早く、私は気づいてしまった。  深呼吸して、自分に言い聞かせる。  大丈夫。まだ、そんなに好きじゃなかった。
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