《1》

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「松田さんって、彼女と別れたばっかりなんだって」  昼休みを後10分残した女子トイレの洗面台で、口に歯ブラシを加えたまま大橋さんが言った。 「誰情報ですか?」 「総務の同期」  洗面台の横にある小さな窓からは、晴れ渡った1月の空を縦横無尽に飛び回るスズメの姿が見えた。  松田さんは、3日前に隣のチームから私たちのチームに異動してきたリーダーの名前だ。  人情派だの人気者だのいや敵もいるだのいろいろ話は出ているけれど、まだほとんどちゃんと話したことのない私は、外見くらいしかこれと言って思うところがない。  180センチを超える長身で着こなす細身のスーツに、すれ違った時にほんのり香るたばこと香水の混ざった匂い。あの髪型はきっとパーマで、総合的にうちの会社では派手な外見の方に入るだろう。  ただその派手な外見以外で私が今思い出せることとしては、デスクトップの壁紙が猫なことくらいだった。 「あれ、大橋さん、ああゆう人がタイプですか?」
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