《5》

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 今日のデザート、甘いものだといいですねとこっそり言おうとしたけれど、正面に座る時任くんに聞こえたらどうしようと思って、止めた。 「ん、課長、それ何ですか?」  ハイボールを飲みながら、大橋さんがテーブルの上に伏せて置かれた課長のスマートフォンを指した。  言われて良く見ると、課長のスマートフォンの裏側には幼児に人気のキャラクターのシールが貼られている。 「これなぁ、最近下の子がいろんなところに貼っちゃうんだよ」  後で剥がさないと、と言いながら課長の頬はしっかりと緩んでいた。 「お子さん、おいくつでしたっけ」  確か上の子は小学生だった筈だ。 「上の子が7つで下の子が2つ」 「男の子?女の子?」 「上が男で下が女の子」  じゃあシールの犯人は娘ちゃんかぁ、と大橋さんが言う。 「いいぞぉ、結婚は。松田も、そろそろ身を固めたらどうだ」  今はセクハラだのパワハラだのが激しくて、仮に飲み会の場だとしても男性社員は女子社員に恋愛しろだの結婚しろだの、口が裂けても言えない。その辺りは勿論課長も認識しているから、敢えて松田さんを個別で指名した。 「いやぁ、そっすねぇ」  軟骨の唐揚げをつまみながら、松田さんは曖昧な返事をした。
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