出会いはいつも王道的

5/16
前へ
/47ページ
次へ
 彼女が通りの角を曲がろうとした時、そんな声が聞こえて来た。  しかしそんな事は気にも留めずに歩を進めた直後。  カリン・アラモードは驚きの余り声を失った。  いや、そもそも口にパンをくわえていた為、声も出せなかったが。  彼女の目と鼻の先には男性の顔。  年の頃は彼女とそう変わらないだろう。  しかしそんな事はどうでもいい。  問題は目の前の男がくわえている物だ。  それは明らかに彼女がくわえていたはずの物だった。  いや、冷静に考えれば彼女は今もそれをくわえている。  すなわち、その物体は今、二人の人物によってくわえられているのだった。  そう、彼女、カリン・アラモードのくわえるパンは。  カリン・アラモードが驚きの余り思わず口を開けてしまった直後。  彼女がくわえていたパンは彼女の口元からどんどん離れて行った。  まるで何かに吸い込まれるかのように。 「ちょっと! 私のパン!」  彼女は漸く何かを思い出したかのように大声を張り上げた。  しかし無慈悲な事に、それは目の前の男の口から胃の中へと跡形もなく消えて行った。 「ちょっと! 私のパン! 返しなさいよ!」  しかし男は暫くの間、目を大きく見開いたままだった。     
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加