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彼女が通りの角を曲がろうとした時、そんな声が聞こえて来た。
しかしそんな事は気にも留めずに歩を進めた直後。
カリン・アラモードは驚きの余り声を失った。
いや、そもそも口にパンをくわえていた為、声も出せなかったが。
彼女の目と鼻の先には男性の顔。
年の頃は彼女とそう変わらないだろう。
しかしそんな事はどうでもいい。
問題は目の前の男がくわえている物だ。
それは明らかに彼女がくわえていたはずの物だった。
いや、冷静に考えれば彼女は今もそれをくわえている。
すなわち、その物体は今、二人の人物によってくわえられているのだった。
そう、彼女、カリン・アラモードのくわえるパンは。
カリン・アラモードが驚きの余り思わず口を開けてしまった直後。
彼女がくわえていたパンは彼女の口元からどんどん離れて行った。
まるで何かに吸い込まれるかのように。
「ちょっと! 私のパン!」
彼女は漸く何かを思い出したかのように大声を張り上げた。
しかし無慈悲な事に、それは目の前の男の口から胃の中へと跡形もなく消えて行った。
「ちょっと! 私のパン! 返しなさいよ!」
しかし男は暫くの間、目を大きく見開いたままだった。
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