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オーディション当日の早朝、最寄りの新幹線の駅までは父親に車で送ってもらい、俺は自動販売機で切符を買い乗車ホームへ向かった。
この新幹線の駅は比較的最近できたので、俺はまだ長期休暇に数回くらいしか家族で来た事しかなかった。また、最寄りの在来線の駅とは車で移動が必要なくらい離れており、普段は地元の利用客は少なくその日も週末だが朝早いためか閑散としていた。
ホームで俺が乗るべき新幹線の入り口に近づき前の乗客が降りている間、何気なく新幹線の白いボディー部分と買って貰ったばかりのレザージャケットの白さを見比べてみた。
近くで見る新幹線は遠目で見る光沢があるパールホワイトではなく、沢山の小さなキズがあった。
家族で乗った時は終始兄とじゃれあっていたのでキズには気づかなかった。ああ、こんな事にも敏感に反応してしまう。一人移動ってすごい事なんじゃないか?
いや、孤独を意識したらダメだ。俺はここから高みを目指すんだ。
思えばこの時から俺のアイドルとしてのスイッチが入っていたのかもしれない。
自分を鼓舞するため、ナルシストでイタめなツブヤキが俺の脳内でスタートした。
未だに周りからはナルシストとからかわれるが、持病みたいなもので一生付き合わなくてはいけないのだろう。
「(新幹線に対して)先輩、俺はまだキズはないが経験もないです。例えキズがあっても周りからはキラキラして見えるように貴方を見習います。」
背筋を伸ばし『先輩』に乗り込み俺はオーディション会場がある東京に向かった。
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