第2通:アイドルの神様へ

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俺は運動神経よりも身体能力が高いタイプだと思っている。 生まれもった脚力に加え、空手で鍛えた体幹があるので、単純に高く飛ぶだけのジャンプや本当に椅子に座っているかのよう微動だにしない空気椅子が得意だった。 一方、サッカーやバスケなどの球技は苦手ではないが、競技中の仲間とのコミュニケーションがしんどいタイプだった。 例えばサッカーゴール付近にいる時、自分がシュートすると成功しても失敗しても目立つな、とか思ってしまうし、かと言ってドヤ顔でパスを求める同級生に託すほど素直ないい奴でもない。 結局自分でシュートする事が多かったかもな。 シュートをした俺を見る女子は口に手を当てて思わず出そうになった歓声を止めていたな。俺がオーディションに合格したらライブを見に来る女子は歓声を思いっきり上げれるんだよな。それって俺も嬉しいな。 そんな事を考えて空気椅子を続けているとふと左上辺りから視線を感じた。 視線の先を追うとオーディション会場のある階の非常階段へのドアが少し空いていた。その奥から男性スタッフらしき人が俺の行動を見ていたのだ。慌てて空気椅子をやめて軽く男性に会釈し、準備体操で緊張を解している少年を演じた。さっき空気椅子をやっていた時、俺、顔笑ってたかも、やばい、やばい。 どこまで本当かわからないが、この事務所あるあるでオーディション中以外の行動が合否を変える事があると聞いた事がある。 例えばオーディションに落ちた少年が審査スタッフに礼儀正しくお礼を言って帰った、会場で落ちていたゴミを拾ってちゃんと分別を確かめ捨てた、等のふとした行動が幹部の目が止まり後日個別に呼ばれるそうだ。 俺の行動はどう映ったんだ?田舎からせっせとでてきて早めに会場についたビビリかつ、非常階段で笑いながら空気椅子をやっているっていうのはちょっとアイドルっぽくないよな。とうかアブナイやつだよな。今後は誰がどこで見ているかわからない。もっと気をつけよう。と身を引き締めた。
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