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俺らの正面に設置されているテーブルとイスがあった。審査員席のようだが、まだ席には誰もいなかった。俺の位置は審査員かから見て右から2番目の区画だ。
両端よりも目に入りやすいなと考えていたがキョロキョロして落ち着きがないと思われたくないので、少し俯いた姿勢で待つ事にした。
数分だが待っている間ふいに「お前、滑舌ワリーな!」と空手の先輩にからかわれた事を思い出した。
せめて自分の名前は噛まないように、名前の紹介を声がでないようにしながら口をパクパクさせ練習した。
そんな感じでやり過ごしていると突然、会場の俺が入った反対側のドアが空き、男性4名女性1名が入室してきて審査員席についた。とうとう始まるのだ。
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オーディションでは結局二言しか話さなかった。
「14番、竹本星也(たけもとせいや)です。」と名前のみの自己紹介と、「特技の空手を見せてくれるか?」との男性審査員の質問に対し、「はい。」と返答しただけだ。
これは俺に限らず周りの子達も同じで、みんな名前と審査員からの質問の返答程度の事しか求められなかった。
オーディションの時間の大半はダンス審査に費やされた。
内容は先輩アイドルの人気ソングに合わせながらのフリーダンスが2曲分。またダンスの先生のその場の指示に合わせて1曲分踊るものだった。
フリーダンスはテレビで先輩アイドルがやっている振り付けを完コピをしている子達も数人いたが、ほとんどの子達がサビメロのみの振り付けしかしらずその他の部分は手足をリズムに合わせて動かしているだけだった。
俺もその一人だったが、2曲ともよく聴いていたものだったので曲の流れは頭に入っていた。AメロBメロ、またサビへに切り替わる部分は一回転ターンをしたり、手足を止めキメ顔をしたり俺なりの工夫をした。
また、ダンスの先生に合わせって踊る曲は極力先生の動きばかりに集中せず、サビにいくにつれての盛り上がりの部分へ向けて動きを少しずつ大きくしていき、サビの部分では顔が引きつりそうになりながら笑顔を作った。
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