第11通:星也くんへ

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星也くん、 この手紙を上手く書けるかどうかわからない。 けれど、他にどうしていいかわからないの。 いつもちゃんとした便箋なのに、今日は私用に使うようなルーズリーフでごめんなさい。 今日、久しぶりに涼くんに会いました。 2月は地元にとって厳しい季節です。 雪が残っていて日中それが溶けて、夜中に凍り早朝はその表面が少しだけ溶けて、1番滑りやすい状況を作ります。 朝の通勤時間は町の動きが全てスローモーションになる瞬間です。 私はそのスローモーションの中で少しだけ早い速度でマイカーを走らせてました。 普段は少しだけ遅い速度で走る私が速度をあげていた理由は、涼くんを迎えに行くためです。 塾は受験が終わった生徒を細かくフォローする必要はないと考えての上か、東京に受験に行った涼くんが次塾に来るかは未定と記録されてました。 特進の生徒はいないので比較的早い時間に全ての講義を終えて帰ろうとしていた時、塾長から呼び止められました。 何事かと思い話を聞くと、涼くんの両親が不在の時に東京から空港に着いた涼くんが帰りの足がなく困っているという事でした。 タクシーも満車で迎えに行ける時間が確定できずバスもないので、できれば迎えに行ける人はいないかという依頼でした。 私はふと、犯罪はちょっとした信頼で起こりえるのじゃないかと思いました。 塾長は特進で有名大学に合格しようとしている彼を優遇したいし、彼の両親は塾の講師ならと頼んできている。 そう思ったけれど私は快諾し、すぐ空港に向かいました。 今までのあれこれ悩んだ事は吹っ飛び、マイカーを走らせている間、彼に久しぶりに会える高揚感に心を躍らせてました。 そして少しでも彼を待たせる事がスピードを上げていたのです。 釧路の空港は町中か車で40分くらいの距離です。 お店とかが空いててその中で待ってくいればよいと思いながら車を走らせていました。 空港に近づき、すぐに彼がどこにいるかわかりました。タクシーやバスを待っているところ。 なんで中で待ってないの!と言いたくなったけどそれが彼の優しさなんですね。 涼くんは私を見て先生!って叫びました! どうしてわかったんだろ。マイカーのデザイン? 暗いところで見えるなんて。若い! 私は迷うなく事なく彼の近くに行き助手席を開け彼をすぐ車内に導きました。
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