第2通:アイドルの神様へ

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俺なりに全力を尽くせたと思う。なんせオーディションは46時間前に知らされたし、ダンスメーンなんて聞いてなかった。 審査員の顔をしっかり見ながら名前を噛まずに言う事ができたし、特技の空手なんて周りの子達が俺から少し離れるくらいのハイキックの演武も披露できたんだ。 オーディションのダンスで少し息が上がりながら上出来、上出来と脳内でつぶやいていると、男性スタッフが大きな声で「以上で終了です。結果は後日お知らせ致します。」とアナウンスした。 そうか今日は結果がわからないのか。どこかホッとし、斜めかけの鞄を取りに隅のテーブルに行こうとした。 「ちょっといいかな?」と突如後ろから男性スタッフに呼び止められた。 話しかけられる事を想定していなかったので、空手の回し蹴りの早さで振り向いてしまい、逆にスタッフの人が少しのけぞった形になってしまった。 「ごめん。びっくりさせちゃったかな。竹本君は今日は東京に泊まるのかな?」 と男性スタッフは聞いてきたので、今日はこの後新幹線で家に帰るつもりですと伝えた。 その後、新幹線は指定席なのかとか、明日の予定どうなっているのかと質問され、新幹線は自由席で明日は特に予定がないが、月曜日は空手の朝稽古の時間は早い。と伝えた。 そっかそっかと男性スッタフはうなづき、一呼吸し今度は突如俺に選択肢を委ねる質問をしてきた。 「実は明日、うちの事務所がメインの歌番組の収録があるんだけど、せっかく東京に来ているんだから、見学していかない?」 知らない人について行ってはいけない。 友達と外でご飯を食べる時には事前に連絡を。 特に友達の家で夕飯を頂くときはお礼もあるので、詳しく教えて。 …母親の言葉が頭をよぎっていた。 かーちゃん、なんか俺そーゆー次元を超えってるっぽい。この人は知らない人だけど、これから人生を委ねるかもしれな会社の社員だ。しかも仕事がらみのお誘いだ。 フリーズしている俺の状況を即座に察したようで、男性スタッフは俺に少し顔を近づけるように、少し屈んで話かけてきた。 「ごめん。突然びっくりしたよね。家の電話番号今わかるかな?竹本くんの親にも聞いてみようか。」
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