第2通:アイドルの神様へ

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事務所のスタッフさんは毎日こういう場面に出くわしているのだろうが、俺は単純に彼の迅速な対応に感心した。 彼は履歴書から俺の自宅の電話番号を調べ、俺の前で電話をした。 彼は数分間、母親とやりとりした。 また他にもいくつか30秒程度で終わる電話をかけていた。 結果、彼が俺に質問をした10分後には、俺は東京に一泊する事が決まり、宿泊先や帰りの新幹線の手配も済ませていた。 スタッフさんは再度俺の母親に状況を説明するために彼の携帯電話を使った。 実際の言葉は聞き取れなかったが、母親のいつもよりワンオクターブ高いトーンが時折電話越しから聞こえてきた。 これは、大丈夫なやつだよな?とホッとした途端、嬉しさが込み上げてきた。 凄いぞ。先輩達に明日会えるんだ。 スタッフさんは俺の母親から宿泊許可を得たので、10分後には宿泊先までの車が会場に迎えに来るので、それまでに先程預けた自分の荷物を取り、お手洗いなどすませてから1階のロビーで待って欲しいと言った。 気づいたら彼と話している間に他の子達は会場から引き上げてしまったので、テーブルは俺の荷物しか残されてなかった。オーディション用に使ったネームプレート付きのストラップも既に回収が終わったようだった。俺は床に置かれた回収ボックスに自分のストラップをそっと入れた。 1階のロビーがすぐにわかるか不安だったが、俺と同じく送迎車を待っている子達が集まっていたので迷わずに済んだ。 この頃の俺は思春期まっさかりで人見知りな子供だった。 同年代の子達が俺が着てるのと似てるジャケットを羽織っていたら、話しかけるのではなく彼らに近づいて会話に耳立てしようと思うチキン野郎だった。 今回の東京1泊でオーディションの合格が近いと感じていた俺は、これから一緒に仕事する人なんだから人見知りしている場合じゃないだろうと、脳内で自己叱咤し送迎車を待つ集団に近づいた。 彼らの1人が俺に気づいて「君も送迎車に乗るの?」と尋ねてきた。歳は俺より下っぽいが「そうです。」と答えた。「そっか、俺らは最寄駅まで送ってもらうんだ。」と言い先程まで話していたグループと会話を続けた。 同じオーディションでも既に仕組みをわかっている奴らもいるんだなと感心しながら少し嫉妬みたいな感情が浮かびあがった。俺の今日の大冒険も都内に住む奴らには通学程度なのかもしれない。
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