第3通:Dear God in a Filed

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数年後、東京で俺が好きな舞台を母親と2人で見た後に聞いたのだが、事務所から今回のオファーがあった時、母親はその場で契約書にサインしたそうだ。 俺の父親は少し亭主関白だったが、母親はそれに一切不満を持たず、むしろ比較的嬉しそうに支えていた。なので父親の了解なしにサインをしたのは正直驚いた。 「星也ちゃんの安心する顔を早く見たかったから…。」と即決の理由を母親が打ち明けてくれた時、今後、芸能界でどんな辛い事があっても母親がその時に決断した事を後悔させないように全力を尽くそうと誓った。 *********************************************************************************************************** 土日はレッスンのため毎週東京に行くので空手は必然的に辞める事になった。 最初、父親は少し残念そうだったが、母親と同じく俺を応援しているのが伝わった。 レッスンを始めてから1ヶ月はあっという間に過ぎた。 中学1年生の春休み直前、日曜のレッスンを終え疲れていたが事務所が用意した車に乗り遅れないため神奈川県帰宅組の後を半ば駆け足で追っていた時、見覚えある大人に呼び止められた。 オーディションが終わった時にテレビ番組の収録に誘ってくれた男性スタッフさんだった。 お久し振りです、と深々と頭を下げると、「竹本君、ちょっと聞きたい事があるんだけいいかな?」と言われ今日会えたのが偶然でない事がわかった。   彼が俺に聞きたい事とは、俺が春休みに長期で東京に滞在できるかどうかの確認だった。 春休みの期間を利用し、事務所が選抜した数名の同年代メンバーのみで本格的なアクロバットやボイストレーニングを合宿形式で実施する事を計画しているそうだ。 俺はこのお誘いに純粋に驚いたし、そして嬉しかった。しかし「事務所が選抜したメンバー」というフレーズに武者震いしたが、その間に挟まれている「同年代」というワードに不安を覚えた。
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