第1通:俺のファン1号、聖母マリアへ

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インターハイが終わったら好きな洋服を買ってもらう事を母親と約束していた。なので週末は地元のショッピングモールで当時の俺がドラマで憧れていた俳優が着ていた襟元にレッドフォックスのファーを使った白のレザージャケットを買いに行った。 勿論、ファーもレザーも本物ではないが、中学1年生が着るのは地元では十二分に背伸びした上着であった。そもそも、ご褒美とは言え親のお金である。 レジを通した後、その場で店員にタグを切ってもらいジャケットを羽織り俺は即座に母親と少し距離を置いた。 思春期の小僧が母親と一緒にショッピングモールにいるのが恥ずかしい訳じゃない。実はその日は俺なりのミッションがあった。これはインターハイからの帰りのバスで決めた事だ。 新品のジャケットを羽織りショッピングモールを歩いてい時、俺に視線を向ける女性が10分で10人に達するというミッションだった。それを達したら半年間のモヤモヤを解消する一言を母親に伝えるのが許されるのだ。 週末で人が多かったおかげもあり、ミッションは7分で達せられた。よし、言うぞ。 「もう一回、履歴書送ってもいいかな?」 俺のファン1号であり、聖母マリアのように慈悲深い俺の母親。今でもかけがえのない存在の彼女にはいくら感謝をしても足りない。   母親は1度目の履歴書は間違いなく送っていた。 久々の母親と末息子水入らずのショッピングがよい方向に働き、俺ルールでできた緩いミッションを通過し玉砕覚悟で発射された俺の履歴書再送のお願いは、聖母マリアにより即座に叶えられた。 翌日、母親はすぐに2回目の履歴書を送った。 内容は前回とほぼ同じだった。連絡はこなかったが、母親がすぐに対応してくれた事に感謝していた。 合否の連絡がないので母親は履歴書の構成を再考してくれた。 3度目の履歴書を送ったのは年が明けてすぐだった。 母のアイディアで3度目の履歴書には空手での県大会の準優勝の結果やインターハイに選抜された事が追記され、俺の顔面育成の経過を示すために撮った歳を記載した数枚の写真も追加されていた。
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