5人が本棚に入れています
本棚に追加
蟻の出入りする隙間もないほどの
雑踏が今日も彼女に襲いかかる。
午前8時、学校や会社に向かう人々が
地下鉄を、電車を、交差点を埋め尽くす。
人混みに揉まれながら、なんとか
出口に向かって一歩ずつ進んでいく。
7月半ばだが、東京の地下は空調が
効いて涼しい。
エスカレーターの前で長蛇の列を作る
会社員達を尻目に、彼女は
地上への階段を駆け上がる。
眩しい太陽の光が彼女の額に照りつける。
天まで届きそうなほど巨大な高層ビル群が
日光を反射してキラキラと輝くのを見るのが
彼女は大好きだ。
「おはよう、蛍!」
「おはよう唯。今日も熱いね~」
東京メトロ銀座線新橋駅前のバス停で、
セミロングで茶髪の女性が蛍に
声をかけた。
蛍の大学の友人、高松唯。
蛍とは同じゼミに所属しており、
彼女のよき相談相手である。
何故か夏でも長袖を着る少し変わった
感性の持ち主でもあるが。
最初のコメントを投稿しよう!