それぞれの日常

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蟻の出入りする隙間もないほどの 雑踏が今日も彼女に襲いかかる。 午前8時、学校や会社に向かう人々が 地下鉄を、電車を、交差点を埋め尽くす。 人混みに揉まれながら、なんとか 出口に向かって一歩ずつ進んでいく。 7月半ばだが、東京の地下は空調が 効いて涼しい。 エスカレーターの前で長蛇の列を作る 会社員達を尻目に、彼女は 地上への階段を駆け上がる。 眩しい太陽の光が彼女の額に照りつける。 天まで届きそうなほど巨大な高層ビル群が 日光を反射してキラキラと輝くのを見るのが 彼女は大好きだ。 「おはよう、蛍!」 「おはよう唯。今日も熱いね~」 東京メトロ銀座線新橋駅前のバス停で、 セミロングで茶髪の女性が蛍に 声をかけた。 蛍の大学の友人、高松唯。 蛍とは同じゼミに所属しており、 彼女のよき相談相手である。 何故か夏でも長袖を着る少し変わった 感性の持ち主でもあるが。
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