ぼくと彼女のスクランブル

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「2-7-1, 30NM, angel 29」 ぼくは彼女が今しがた口にしたオーダーを繰り返す。 「Readback is correct. じゃ、あたしは先に行って索敵する。生きて戻ったら、駅前の店でおごりなさいよ。約束よ」 「え、なんでぼくが……」 ぼくがそう言いかけたときには既に彼女は翼を広げていた。普段はコートのように使っているが、彼女が身につけているのは飛行士の証、ウイングスーツだ。 ドォン! 空気が爆ぜる。次の瞬間、彼女は高度千フィートほどの上空にいた。蒸気(ヴェイパー)の尾を白く引きながら、目標の方角、磁方位271に向かっている。 相変わらず見事な離陸(エアボーン)。一万五千フィート以下では彼女の運動性能にはとてもかなわない。プランクスケールにコンパクト化されたはずの余剰次元を使いこなす能力を備えた彼女たち(アビエータ―)は、しかし、それが限界だ。酸素マスクを付けない彼女たちはその高度を超えることはできない。それ以上は、ターボチャージャーを搭載した機体を駆るぼくたち操縦士(パイロット)の独壇場なのだ。 おっと、見とれてる場合じゃない。ぼくは滑走路に走り、掩体壕の中で佇んでいる機体に飛び乗る。 「コンターク!(エンジン始動)」 ぼくは額に跳ね上げていた飛行眼鏡(ゴーグル)を両眼に戻す。 ---     
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!