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ほんの数時間前までは、この晴天の空の下、眼前に広がる壮大な景色にはしゃいでいたものなのだが。
砂漠の旅はとても危険なものだ。知識も経験もある。
しかし、キラキラと風に舞う金色の粒や、サラサラと微かな音を立てながら丘陵を滑る砂のヴェールはとても美しく、何度訪れても、危機感を凌ぐほど目を奪われてしまうだった。
マスクも付けず感嘆の声を上げ続け、”初めての砂漠でもあるまいし”、と旅の仲間はあきれていた。それでもその人物は、砂が足を捉えることすら面白く、転びながら歩く事にも夢中だった。
あれからいくらも経っていない。にもかかわらず、この随分な状況に辟易としてしまう。
(ああ……空が青すぎて意識が遠のいて……あれ? これさっきも言ったよね……)
あたたかい砂の上に直接仰向けになって、雲ひとつない空を見ながら浮かぶ言葉はそろそろループしている。
意識が混濁し始めているようだ。発熱による体中の痛みに加え、次第に手足の指先から刺すような痛みがじわじわと体中に広がる。
(まずいかも……。――なんか死んでしまいそうだけど……大丈夫なのかな、これ)
広がる青い空だけを見続けていたから、自分の体も浮かび上がって空中に放り出されていく錯覚すら覚えた。
(あ……。天に……召される……かも……)
体がふわりとした時、ぬっと視界に顔があらわれた。
「どうだ? 具合は」
言葉と同時に額に手が置かれた。ひんやりとして心地よい感覚に我を取り戻すことができた。
どうやら天に召されるのは免れたようだ。
声の主の長い髪が顔にかかるが、触れる感覚は無い。
「ぼーっとするけどまだ何とか。それよりさっきから……」
「痛むか?」
「痛い」
「そうか。テントが張れた。中に移してやろう。これからが本番だ。ますます具合が悪くなるだろう。だが、タイミングは丁度だ。ほら、向こうの地平線が煙っている」
呑気な口調ではあるが、髪の長い男、ローズは辺りを警戒していた。
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