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嘔吐、高熱、意識障害に次いで末端から広がる体中の痛み。
ある特定の毒の典型的な中毒症状だ。
砂に横たわる人物、ミュウは苛酷な砂漠の環境に体力を奪われたのではなく、毒に侵されていたのだ。
「痛むだろうが……触るぞ」
居心地はさほど変わらないが野ざらしよりはマシだろう。ミュウの容体は刻一刻に悪化している。簡易テントに移すため断りを入れ、体の下に腕を差し込みローズはゆっくりと持ち上げた。
「……っ! 重っ!」
「……ごめ」
つい口にしてしまった言葉に律儀に答える様が不憫だ。ローズはため息を吐いた。
ミュウは大分消耗している。痛みもみるみる強まっているはずだ。
ゆっくりと、慎重に、ミュウをテントに移し終え「……大丈夫か?」と、耳元で囁いても返事は無く、痛みで顔を歪めていた。ローズはもう一度ため息をつくとテントの脇に腰をおろした。
「――早く……来い」
地平線を睨みつけながらローズはつぶやいた。徐々に膨らむ砂煙、目を凝らしても中心部はまだ分からない。
彼らはここを通るであろう軍隊の凱旋を待っているのだ。
地平線に隠れていて見えはしないが、地図上では砂煙の立つ方向とは真逆に、城壁があるはずだ。
こんな砂漠の真ん中に位置取っているのは、隣国への遠征から帰還する途中の軍隊に病人を助けて貰う算段だからだ。計算上ではうまい具合にこのあたりをとおりかかる。
地響が足先から伝わる。近付いて来たようだ。
――よし、やるか。
砂煙に向かってローズは大きく両手を降り始めた。
遠すぎる位がいい。向こう側からは望遠鏡でこちらの様子が見えているだろう。
必至に助けを求めるならこれくらいでなきゃいかん。ローズはブンブン腕を降り続けるけ、実際はそれほど大きな声ではないが、「おおい! こっちだ!」と、大声を出しているように口を動かした。
やがて、砂煙から軍隊の影が見えてきた。
先頭は、彼らからかなり離れた所を横切って進む。通り過ぎてしまうようにも見えたが、隊列とは分かれこちらに向かって来る小隊がある。ローズに気付いたようだ。
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