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梓の家の工房に着くとちょっとした騒ぎになった。
親方、お嬢が跡取り連れて来ましたぜ。なにぃ、梓にはまだ早い。親父勘違いすんな、ただ同級生が見学に来ただけだ。ここでは親父じゃない、親方と呼べ。知らないよ、宮も私をお嬢と呼ぶんじゃない。
梓とお父さんと一人の職人さんが早口でケンカするのに圧倒された。
「あ、入んなよ」
梓にそう言われてやっと工房に踏みこむことが出来た。
見慣れた山車が部品単位に分解されている。細部にまで及ぶとまさに数え切れない程だ。
写真や動画を撮っていいかと親方に聞いたら、良いとふたつ返事だった。山車は皆んなに見てもらう物だし、技術は真似出来るならして貰おうじゃないかと。
そうこうしている間に梓が着替え工房に降りて来た。ティーシャツにショートパンツ姿だ。
「寒くねえの」
日差しのあまり入らない工房はコートを着ていても冷んやりする。
「寒いよ。でも仕事しているうちに熱くなるからね」
「梓はどんな仕事してんの」
「全部だよ。材木の切り出し、加工、彫刻、分解、組み立て、清掃、修復、漆塗りや金箔、冶金までするね」
「そんなに出来るの」
「やらなきゃね。将来一人前になったら、それこそ一人で全て作り上げなくてはダメなんだ。親方が、わかんねーって言っていたら、そんな工房に誰が頼むって言うんだい」
なるほどとうなづく。
今日の梓の仕事は銅板の打ち出しだった。銅の板を何度も叩くことで形を浮かび上がらせていく。見る間に美しい花柄が立体になってきた。梓は汗まみれになりながらもハンマーを振るい続けた。
俺は構えていたスマホを降ろすと撮影を辞め、撮っていた内容を消しはじめた。
「お前、なんで消してる」
親方か俺の行動を見ていていった。
「なんと言うか、(凛)々しくて。中途半端な気持ちじゃ撮っちゃダメと思いました」
「それが分かれば大したもんだ。しっかり自分の目だけを信じておけ、寒いだろこれ着とけ」屋号の入った法被を着せてもらった。
その後も梓はいろいろな仕事をこなしていった。
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