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「ゆ、夢ですか、山で迷子になった時、幼馴染が蜂の巣を叩き落とそうとしていたのを必死に止めていましたね」
「え、あー、そっちの夢じゃなくて、将来の展望とか」
「あ、あ、す、すみません。てっきり(初夢)の話かと」
何が楽しくて見知らぬ人と夢の話をしなくてはいけないの。楓は内心呆れてため息をついた。
「将来の夢は実家の酒蔵を継ぐ事です」
男性が顔を上げて答えた。
「あ、そうでしたね」
楓は釣書を読んでいないことをバレないように取り繕う。
「幼馴染と二人で、小さくてもここにしか無い美味しいお酒を作るのが夢です」
余程お酒づくりが好きなのか、満面の笑顔で、目を輝かせていた。そんな男性を楓は少し眩しく感じた。自分の好きな事に真っ直ぐ向き合う。羨ましさと少しの嫉妬すら芽生えた。私はまだどんな私なのかも定まっていないのに。本当の意味で、私には勿体ない人だ。
「その幼馴染の方と仕事をしてるんですね」
私の夢なんて聞かれたら、辛すぎる。先にどうでもいい質問をしておく。
「いえ、まだ一人です。初夢に出てきた幼馴染なんですけど、もう何年も会っていません」
「会っていないのに一緒に仕事するのですか」
「一緒に酒蔵をしようと約束しましたからね。小さい時の約束だから、相手が覚えているかは不明ですが」
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