箱チョコ

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箱チョコ

 私はいつもの電車に乗り、いつもの学校の校門から教室に向かう。何人かが下駄箱から取り出した時にひょっこり現れた箱を見つけてはガッツポーズを見せる。私が生きてきた人生の中でそんな物をもらったことがない。だから彼らの喜びなんて分からない。むしろ本意で与えたのではなく、義理チョコで入れているだけだから喜ぶ必要性があるのかなんて言うまでもない。なのに彼らはそれなりに喜ぶ愚か者たちだ。  教室に入り、自分の席を見る。席の中から箱を取り出して喜ぶ男子たち。手渡しでチョコを受け渡しする男女たち。チョコのような甘い風景が私の目を蝕む。  席に着くなり、私はカバンから家から持ってきた教科書やノートなどを机の中に仕舞い込む……。何かが机の中でそれを阻止している。私は教科書などを机の上にひとまず置いて机の中に手を入れる。そこにあったのはブルースカイに入れられた小さめの箱だった。恐らく中にはチョコなのだろう。誰かに見られていないか周りを見渡す。誰にも気付かれていないようだ。私は教科書を机の中に入れ戻して制服のジャケットのお腹部分にそれを隠してトイレへと走り込む。個室に入って中を見る。中にはチョコが入っていた。そのチョコに手で触れてみる。しかしそのチョコは取れるところか触れない。箱を近づけて目を凝らして見る。チョコかと思ったそれはただのチョコの絵だった。箱の中で影などうまく利用してまるでそこにあるかのように立体化させたチョコの絵だった。世間的に言う゛騙し絵゛である。  差出人が箱の裏に書かれていた。明智麗子(あけちれいこ)。同じクラスの彼女はこの高校で美術の才能が高く、コンクールなどでよく褒め称えられていた。そんな彼女が私のために与える理由は何だろうか。  私はトイレから出ようとした。その瞬間、明智麗子が隣の女子トイレに入る前に私の耳元で呟いた。 「あなたもこれで愚か者たちの仲間入りよ」  横を見ると、彼女はトイレの中へ消え去った。教室に入るなり、また喜ぶ男子学生を見て自分の恥ずべきことと彼らの喜びがこういうことだったのかと理解したというダブルパンチが来た。だからチョコというのは甘いんだ。私はそう思い、席に着くのだった。 -終-
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