2 悪夢

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「やっぱり俺は助けられなかった」 視ていたのに。そう思うと同時に、諦めのような感情が湧き上がってくる。 昔、どこかに「もしも全世界の物質の位置と運動量のデータを持ち、それら全てを解析するだけの能力を持つ知性が存在するとしたら、その目には未来も全て見えているだろう」と考えた人がいたらしい。その人はそんな存在を、悪魔として表現したそうだ。 (確かに悪魔だ) 俺にそんな解析なんかは出来ないし、そんなデータなんて持っていない。 でも、絶対に避けられない未来である、という一点においては、俺と同じだ。 俺が悪夢として視るのは、そんな未来。しかも、人が亡くなる悪夢。 (どうせ避けられないなら視えない方が良かったのに) 今まで、自分なりにやれるだけのことはやってきたと思う。 でも、それでも、未だかつて助けられたためしは、ない。 黙って天井を見上げていると、不意に辺りが暗くなった。 目のあたりが温かいから、おそらくこれは陽の手だろう。 「寝てろ、大丈夫、俺が完璧に授業聞いてきてやるよ!」 「‥いつも開始10分で寝てるの誰だっけ?」 「朝練なかったから大丈夫だよ!安心しろ??」 怪しいなぁと苦笑しながら言うと、陽は笑って、そのまま静かになった。 (寝るまでいてくれるのか) 唯一俺の悪夢を知っている陽。 黙っていたのに、気付いて、側でずっと助けてくれている大切な幼馴染。 少しまどろんできた頭で思う。 (本人には絶対言わないけれど) (俺は) (陽が思ってる以上にお前に救われてるよ)
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