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「やっぱり俺は助けられなかった」
視ていたのに。そう思うと同時に、諦めのような感情が湧き上がってくる。
昔、どこかに「もしも全世界の物質の位置と運動量のデータを持ち、それら全てを解析するだけの能力を持つ知性が存在するとしたら、その目には未来も全て見えているだろう」と考えた人がいたらしい。その人はそんな存在を、悪魔として表現したそうだ。
(確かに悪魔だ)
俺にそんな解析なんかは出来ないし、そんなデータなんて持っていない。
でも、絶対に避けられない未来である、という一点においては、俺と同じだ。
俺が悪夢として視るのは、そんな未来。しかも、人が亡くなる悪夢。
(どうせ避けられないなら視えない方が良かったのに)
今まで、自分なりにやれるだけのことはやってきたと思う。
でも、それでも、未だかつて助けられたためしは、ない。
黙って天井を見上げていると、不意に辺りが暗くなった。
目のあたりが温かいから、おそらくこれは陽の手だろう。
「寝てろ、大丈夫、俺が完璧に授業聞いてきてやるよ!」
「‥いつも開始10分で寝てるの誰だっけ?」
「朝練なかったから大丈夫だよ!安心しろ??」
怪しいなぁと苦笑しながら言うと、陽は笑って、そのまま静かになった。
(寝るまでいてくれるのか)
唯一俺の悪夢を知っている陽。
黙っていたのに、気付いて、側でずっと助けてくれている大切な幼馴染。
少しまどろんできた頭で思う。
(本人には絶対言わないけれど)
(俺は)
(陽が思ってる以上にお前に救われてるよ)
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