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「大丈夫ですよ」 「何が?」 「私は誰にも言いません。先生自らがバレるようなことをしない限り、たぶんバレることはありません」  その言葉に坂本は篠宮から目を反らした。右斜め下を見ながら、自分の鼓動が速くなることを坂本は感じた。 「今月の終わりには、私は東京へ行っちゃいます。こっちで就職するつもりもないし、よっぽどのことがない限り、私は帰ってきません。先生は、先生のままで過ごしてください」 「篠宮、あのさ」 「先生」  坂本の言葉を篠宮は遮った。 「先生のおかげで私は第一志望の指定校推薦を貰うことができた。憧れの東京に行けることになった。 それでいいんです。そういう意味では私も共犯、なのかな…?」 「それはない!篠宮は本当に成績が優秀だった。俺が担任じゃなくてもきっと」 「まぁ…先生が私の担任にならない未来に行かないとわからないですけどね」  篠宮の担任にならない未来、坂本そんなことを考えた。そうすれば今、自分はどんな気持ちでいたのだろう。すっきりした気持ちで卒業式を迎えて、終えることができていたのだろうか。いやクラスは違っても篠宮がこの学年にいたならばいずれはーー、 「先生」  ハッと、坂本は我に返った。  篠宮の「先生」という言葉は鋭利な刃物であるかのように、坂本の妄想を断ち切る。 「私はそんなに多くのこと望んでないです。別に私は被害を受けたわけじゃないし、他の誰かも被害を受けていない。全員の話を聞いたことはないけど、先生の悪口って全然聞いたことないです。佐藤先生なんてぼこぼこに言われてるのに」  三年一組の担任の名前を聞いて、坂本は苦笑した。教師間ですら評判のよくない昔気質の年配教師だ。あからさまに怒鳴りつけたりするスタイルは今の生徒には受けが悪いだろう。 「誰も困ってないんだから、このままでいいんです。先生は先生で」 「篠宮」 「はい?」 「君がそう言ってくれるのは嬉しい。ありがとう」  坂本がそう言うと篠宮は微笑んだ。僅かに赤く頬を染めて篠宮は微笑んだ。 「でも、俺はもうこれ以上はダメだと思った」 「え?」  篠宮の顔から微笑みが消えた。坂本を見上げる視線に冷たさが蘇る。しかし、怯んでいるわけにはいかない。
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