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「あ、じゃあ、あなたが頭領の鈴木孫一さん?」
と、思いきや。
「それがしは重意が三男・鈴木重朝。またの名を鈴木孫市と言いまする。まごいちの〝いち〟は一つ、二つの〝一〟ではなく、市場とか初市とかの〝市〟ですね」
続けて青年も、そう自分の名を雷童丸に伝える。
「はい?」
なぜか二人も現れた〝まごいち〟に、雷童丸はわけのわからぬといった顔で小首を傾げる。
「他に今、平井政所に立て籠って北から攻め寄せる織田軍を食い止めておる嫡男・重兼も平井孫一と呼ばれておるの」
「ええっ!? じゃ、じゃあ、孫一さんは三人いるんですか!? なんで三人も……雑賀孫一って雑賀の頭領なんじゃ…」
「ハッハッハッ…おっしゃる通り〝雑賀孫一〟は代々雑賀の長が名乗る名前じゃがの。こんな御時世、いつ戦で命を落とすかわからんでの。もしもの時を考えて、倅達には皆〝まごいち〟を名乗らせておるのじゃよ。まあ、一応、家督は嫡男の重兼が継いでおるがの。ちなみに重朝は区別がつくよう孫一ではなく、孫市にしてある」
白髭の老人――鈴木佐大夫は驚く雷童丸の様子を愉快そうに見つめながら、空中に人差し指で字を書いて彼にそう説明した。
「なるほどぉ…そういう風になってたわけですね。おいらはてっきり、かの有名な雑賀孫一さんは一人の人物なんだとばっかり……ってか、普通そうですよね?」
「ハッハッハッ…そういう風になっていたんじゃよ」
現在、それどころではない状況ではあるが、事情を知らぬ者が見せるこうした反応がおもしろいのか? 佐大夫はもう一度、愉快そうに大きな笑い声を上げる。
「そうか。なら、その家督を継いだ嫡男の孫一さんに本来なら話を通すべきとこなんだろうけど……まあ、また平井政所ってとこに潜り込むのも面倒だし、ここにいる皆さんも、もとも含めて全員〝まごいち〟さんみたいだからいいか。そんじゃ話戻りますけど、クシナダの姫を奪還するために雑賀衆の皆さんにちょいと協力してもらいたいことがあるんですが……」
雑賀衆の統率者を巡る複雑な事情が大体呑み込めた雷童丸は、今度こそ、わざわざ夜陰に紛れてこんな所までやって来た本題をようやくにして切り出した。
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