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クシナダの姫と化した珠がスサノオを呼び寄せてより四半時(約三十分)ほど後……。
「そろそろ頃合だな……よーし! 兵の乗り込んだ舟より川を渡って敵陣へ進めえーい! もたもたしてると川が荒れて逆に渡れなくなるぞっ!」
暴風雨により水嵩が増し、雑賀川が舟でも十分に行き来できる深さになったところで、幾艘もの小舟に分乗した織田の兵達は対岸の雑賀城砦目指して一斉に櫓を漕ぎ出す。
この恐ろしいほどの数の舟は間見に言われた羽柴秀吉が一昼夜の内に用意させたものである。
壺やら縄やらが川底に仕掛けられ、人馬では容易に渡河することができなかった雑賀川を舟で渡る……それが〝クシナダの姫〟を使った織田の狙いの一つなのだ。
「もたもたするなあっ! 急げえっ!」
ただし、川の水嵩を増す暴風雨の副作用として、少しでも機を逸すればたちまち川は荒れ狂い、むしろ余計に渡ることが困難になってしまう。どの武将も声を荒げ、配下の兵達を急かしているのはそのためだ。
「それえい! 進めえーっ! これまで散々愚弄してくれた雑賀の者どもに、今日こそ目にもの見せてやるのだぁーっ!」
どうどうと激しい勢いで流れ出した雑賀川を渡る船団の先頭を行くのは、数日前に先鋒として最初の渡河を試み、結果、散々こっぴどい目に遭わされた堀秀政である。
「雑賀め! 今日こそその城落としてくれるわ!」
これまでの借りを返すべく、今回も彼は一番乗りを果たそうとしているのだ――。
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