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「――鳴神殿の心配が的中してしまったの……」
その頃、雑賀軍の本城・雑賀城では、先代孫一である鈴木佐大夫が天を見上げ、残念そうに呟いていた。
「まあ、こうなってしまっては致し方ない。『乙』作戦とやらで行くしかないの……皆の者! 屋根の下から鉄砲を撃てる者はとにかく間を置かずに撃ち続けい! そうでない者は弓を取って矢を射かけるのじゃ! 絶対にこちらの岸へやつらを上らせるでないぞっ!」
本丸の館の縁に立つ佐大夫は、外に向けて大声を発する。
「オーッ!」
大将の号令に応え、雑賀の兵達は気合の籠った鬨の声を一斉に上げるが、その声が虚しく聞こえるほど、得意とする鉄砲がほとんど使えないこの状況は彼らにとって致命的である。
城とはいってもこの頃の城というのは近世の城――いわゆる現代人がイメージする〝日本の城〟とはまったく違い、柵や板壁、堀に土塁などを小高い山みたいな所に巡らしたものであって、大きく立派な建物も、瓦屋根の載った白亜の城壁などもまるでない。
雨が降れば当時の銃火器〝火縄銃〟を使える場所はごく限られたものになってしまうのである――。
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