第一幕 黒合羽(マント)の士

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「では、早速に福地めの息の根を止めに総攻めと参りまするか? ワハ…ワハハハハ!」  鍬形を取り囲む、いずれも性悪そうな面相をしたその他四人の家臣達もまた、夜の山中に下品な笑い声を耳触りにも振り撒く。  鍬形軍の者達は皆、自分達の明るい未来を疑うことなく、敵の城を落とす前から勝利の美酒に酔いしれていた。  …………しかし。 「あのう……せっかく盛り上がってるとこ悪いんだけど、ちょっと失礼しますよお」  突然、まるで聞き憶えのない声が鍬形達の耳に聞こえてきたのだった。 「…!?」  その声に、鍬形と彼の家臣達は皆、そのバカ笑いをやめて不意に沈黙する。  すると、彼らの眼前に広がる漆黒の闇の中から、まるでその暗闇が凝り固まって人型を為したかのように、真っ黒な頭巾(フード)付の合羽(マント)を羽織った奇怪な人物が一人現れた。  合羽のためによくはわからぬが、身の丈はそれほど高くなく、まるで少年か女子(おなご)のような体格をした人物である。 「……な、何奴じゃ!?」  予期せぬ異形の珍客に、鍬形は唖然とした表情でその人物に問いかけた。 「鳴神(なるかみ)呪士(じゅし)兵主雷童丸(ひょうずらいどうまる)……」  鍬形の問いに、目深に被った頭巾(フード)も取らぬまま、黒衣の人物はよく通る声で一言、そう名を名乗る。 「じゅ、呪士……じゃと?」  呪士――その言葉を聞いた瞬間、鍬形は脂ぎった顔面を硬直させた。それは、彼の家臣達にしても同じである。 「な、なぜ、その呪士殿がこんな所に……も、もしや、我らにお力添えくだされるので?」  どういうわけか、すっかり血の気の失せた顔になってしまった鍬形は、それでもなんとか気を取り直し、〝呪士〟を名乗るその人物に希望的観測を込めて尋ねる。 「ハハハ…まっさかあ。わかってるくせに。呪士があんた達の味方するわけないじゃん。その逆だよ、逆。おいらは福地の殿様に依頼を受けてここに来たんだよ」  だが、その呪士――兵主雷童丸は、鍬形の淡い希望を完全に裏切り、無邪気な声で彼にそう返した。 「……そう。おいらはあんた達に報いを与え(・・・・・)に来たのさ」 「………………」  鍬形達の身の内を流れるどす黒い血は、今の言葉で完全に凍りついた。
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