『カイ』

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『カイ』

本屋『CRESCENT(クレセント)』で店番をしながら本を読んでいた俺は 大きな音でクウの元に向かった。 朝から少しずつ近づく芳香が、気にはなっていた。 ものすごい匂いが過敏な鼻をくすぐるからーー 一度覚えた匂いは忘れない。 この匂いの持ち主は必ず探すつもりだったがーー 思わなかった。まさか向こうから来るとは。 喫茶『BLOODMOON』に行くと クウが固まったように動けないでいた。 ーーほら、クウ・・・お前は『狩り』をしないから・・・ 花の生気と人間の食べ物では 力が出るはずもないのに・・・ まあ、動けないのはわかった。 彼女はーー朝から感じていた芳香の持ち主はーー 伝説の女だったからーー 約千年に一度の、奇跡。 この女を手に入れれば クウは苦しまずに、済むだろう。 ヴァンパイアのくせに 優しすぎる、クウ。 人の心を失えない、クウ。 動けないクウの肩を叩き、 笑顔で3人の客を席に案内する。 よく似た男2人の背後の守護者が威嚇してくるが、このぐらいでは痛くも痒くもない。 メニュー表をクウに渡し、しっかりしろ、と肩を叩き、告げた。 「・・・あの女は 必ず手に入れる・・・」 割れた皿を片付けていたら 少し手を切ってしまった。 みるみる塞がる傷口。 ヴァンパイアだから・・・傷などすぐ塞がってしまう。
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