それは少しだけ特別な

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それは少しだけ特別な

 三十路を超えて幾年経ても、不図したはずみに十代半ばの出来事を思い出す……なんてことは、ままあることだ。私は今、SNSへ投稿された「バレンタインデーにチョコを上げていることを欧米の友人に言ったら云々」という、説教じみたエッセイ漫画を目に留めて、祖母に貰ったプレゼントのことを思い出した。  バレンタインデーなど、小学校の頃はそれはもう、期待に胸を膨らませたものだ。うまくもないサッカーに友人と勤しんでいつもより遅くまで残っては、意気消沈とし家路についた。  中学に上がれば、身の程を知り、寧ろ過敏に忌み嫌いもしたが、高校に上がる頃には、恨みさえも消えて心の底からどうでも良くなっていた。その頃の私には、バレンタインは家族内でのイベントでしかなくなっていたのだった。母が、スーパーの特設コーナーで買ってきた九個入り千円弱のチョコレートを、私と父、それから妹にも買い与え、妹も、手作りの友チョコのおこぼれを家族へ振る舞った。  それで十分だった。しかし――私が十五六の頃だったと記憶しているが――突如として、バレンタインイベントに祖母が参戦してきたのだから驚いた。     
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