それは少しだけ特別な

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 妹も母も、いつの間にやら私にチョコを渡さなくなっていた。家族イベントからも降格されたその日は、私にとって、女性社員からチョコを渡され「今気づいた」という風に驚いて、にこにこ顔で頭を下げながらホワイトデーのことを考えるという、なかなか面倒な日になってしまった。  ただ……  嫌いになるのは止してやろうと思う。  経済効果は大きくて、世間のうら若き乙女どもの背中を押し、大半の思春期男子の心を踏みにじる愉快な日……などということはどうでも良い。  その日の出来事は、私と祖母の、そう多くない、大切で幸せな思い出のひとつなのだから。  取りも直さず「愛」に思いを馳せているのだ。ビニール袋入りの酢昆布を見て、聖ウァレンティヌスがいかがお考えかは知れないが、バレンタインデーの文脈に沿った正しい行いだ。当日、仏壇になにか良いものを供えたならば、お釈迦様だって笑顔になろう。
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