プロポーズ

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 大丈夫です。大丈夫。私は何も気にしてはいませんから、貴方はどうか堂々となさって下さい。改札を通り抜けてやって来た貴方に渡された大きなバラの花束は、何よりも美しいもののように思いました。この花束が電車の中でどのような存在であったのかなど、手渡された私が考えてはいけないのでしょう。  貴方はペコペコと頭を下げながら、待ち合わせ時間に遅れてしまった事を謝ってくれますが、私は何も気にしていません。私の記憶は数か月前に遡って、「女性とデートをするのは初めてで」と言った貴方が、大慌てで改札口から駆けて来る光景を昨日の事のように思い出して居ました。  前方の視界を埋め尽くしてしまう程の花束はとても重くて、私が転びそうになれば貴方が先に転び、そんな事を繰り返すうちに、すっかりと貴方のスーツは汚れてしまったようでした。ですが私は何も気にしていませんから、「ごめん。色々と初めてで……、ごめん」と謝罪の言葉ばかりを並べ立てる時間はそろそろ終わりにしませんか?  たどり着いたレストランは、見るだけで委縮してしまいそうな程の高級なお店で、ホールに佇んでいたボーイに呼び止められた貴方は、おしぼりか何かでスーツの汚れを落とすように頼まれていました。
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