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私は何を気にする事無く、大きな花束を抱えたまま、ホールの隅にあったソファに座り、奥のテーブルへと通される事を待っていますから、貴方はどうか、貴方のペースで話を進めて下さいませ。
「ご、ごめん……予約した日が間違ってて、その……」
スーツはしっかりと汚れを落としたはずなのですが、肩を竦めて丸まったスーツは、先程よりも随分とよれてしまっているようです。大丈夫ですよ、私は何も気にしていません。貴方のネクタイを片手で軽く直してから、「あの、あと、一時間くらいでテーブルが空くらしいから」との言葉と共に、再び腰をソファへと落としました。一時間くらい、どうって事ありません。何も気にする必要はないじゃないですか。
十五分、三十分と時間が進み、四十五分、一時間と過ぎても尚、ボーイが貴方に声をかける様子はありません。ソワソワと、足で軽く地面を叩きながら落着きを無くす貴方と、店の外でパタパタと揺れる旗とが意図して同じ行動をしているように思え、少し可笑しくなってきます。
「お待たせしました」
ボーイに声を掛けられたのは、入店してから一時間と二十分が過ぎた頃でしょうか。
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