プロポーズ

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 貴方は私に頭を下げ、それからボーイにも、すれ違うスタッフの方皆に頭を下げながらテーブルへと向かいます。店内の客が視線を向いていたのは、そんな腰の低い貴方を素敵な人だと思っての事でしょうか、それとも、そんな貴方に花束を渡された私を羨んでの事でしょうか。前者でも後者でも嬉しいのですが、貴方はテーブルにつくなり、「ごめん。実は、こんなお店に来たのは初めてで」と分かり切った事を謝罪します。  正直に言いますと、ろくな仕事も見つからず、毎月幾らか頭を下げて強請る貴方が、手馴れた様子でボーイ達をこき使う方がおかしく思えます。だから、私は何も気にしていません。どうか、貴方はそのままで。たとえ、乾杯の声と共にワイングラスを倒してしまっても、私は何も気にしていませんから、早くお手洗いで上着を洗って来た方が良いと思います。  美味しい食事に舌鼓を打ち、私はとても楽しい時間を過ごせました。そしてデザートが運ばれて来た頃合いに、貴方は顔を強張らせたまま鞄を漁り、そうしてひっくり返してしまった鞄の中身を慌てて拾い集めた後、大きく深呼吸をして告げました。
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