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居毒木グループはすげぇな、こんなことのために街を丸ごと騙したのか?
本当だったら、宇宙に行った金持ちなんて、いないのかもしれない。
実家の犬と父が死んだのも、でっちあげなのかもしれない。
空を見上げた。満天の星空だった。
大きな月なんてどこにも見えないじゃないか。
俺は白い息を吐く。
「ひとりでいくな」
かすれた言葉と同時、強い力で腕を掴まれた。もう俺に追いついた居毒木が、荒く呼吸を繰り返している。
その泣きそうな顔を見て、そういえばこいつは足が速かったことを思い出した。
「隠し続けられたら、良かったのに、遠回しなこと、してごめん」
悲痛を帯びた声だった。
地球が終わりますなんてニュースを、街中のデジタルサイネージで見たときよりもよっぽど。
普段は、何もかもを肯定する、ともすれば自我のなさそうな優しい目をしているコイツは、こんなにも。
「……お前、俺のこと、好きだったの?」
こくり、と大きく一回頷く居毒木。
「ルームシェアに憧れてたってのは、嘘だろ?」
俺の質問に、また大きく一回頷いて。従順な仕草を見て、俺はあいまいな笑みを浮かべてしまう。
「でも、地球が終わるのは本当だ」
居毒木が俺を引き寄せ唇に触れた瞬間、大きく地面が揺れた。
ここからじゃ見えない、地球のどこかにとうとう月がキスをした。
「決してシェルターから出ないようにお願いします」なんていうアナウンスは、途中で切れて終わっている。
了
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