とある旅の途中に

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とある旅の途中に

ロンドンの街に雪が降った。やわらかい初雪だった。 「A教授待ってくださいよ」Bは白い息を尾に引きながら、走ってAの元へ向かう。 「なんだ、遅かったな」Aは子どものように明朗な声を発する。Aが幼く見えるのは、容姿だけでなく、この声も1つの原因である。 Aは、白いマフラーにケチャップがつかないよう、先程Bから買ってもらったホットドッグに、注意深くかぶりつく。美味しかったのか、小ぶりな顔の割に大きい目の奥が、凛と輝く。その大きなセピア色の瞳には、真っ白い初雪が映っていた。 「お金出すのに手間取ってしまって。それにしてもひどいですよ。僕にホットドッグ代払わせて、そのままどっか行っちゃうんですから」 「報酬だよ報酬。私のおかげで今日の事件は解決できたんじゃない」Aのポニーテールが左右に揺れる。彼女は誇らしげな顔をして、そうしてもう一口ホットドッグを食べる。 「まあそれはそうですけど......」Aは納得がいかない顔をしたが、しかし普段の彼女と比べるとホットドッグ代くらいなら安いものか、と思い直した。彼はここ数ヵ月で、Aのわがままに付き合えるだけの器量を持ちはじめてきた。「そういえば次はどの街に向かうんですか」 「そうだなぁ、次はリヴァプールにでも行こうかと思っている」 Aは、優雅に雪空を飛んでいる白い鳥を眺めている。 「えぇ、遠くないですか。僕も、僕のバイクももうヘトヘトですよ」頭を振ったため、Bがかぶっているパイロットキャップが左にずれた。
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