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「気にするな。俺の家だ」
「俺の家って、そんな!帰りますから。私」
翔の腕を乱暴に振り払った。
すると同時に体に羽織っていたタオルまではらりと地面へ落ちていく。
「どうしてだ?」
凄く悲しそうに眉毛を下げて翔が聞いてくる。
「どうしてって、当たり前でしょ。あんまり知らない人の家には普通…入らないでしょ」
「俺が信用できないのか?」
切なそうな、それでいて怒っているような顔だった。
玄関の重厚なドアが開き
「お帰りなさいませ」
の声と共に頭をさげるメイドみたいな人たちがズラッと中に並んでいるのが見えてきた。
黙って翔は、香織を見おろしている。
「だって……普通は」
既にさっきから普通な人間には理解しがたい事だらけだった。
濡れた女を犬みたいに拾ってくる男も、こんなおとぎ話みたいな庭園も、大きな英国調の大邸宅もたくさんのメイドたちも凡人の頭では理解できないことばかりだ。
ーーーこんな世界が実際に日本に存在するなんて、信じられないもの。
「普通って何だ?お前にとって普通でない事は
全て信用できないものなのか?」
そう言って翔は、苦々しそうな表情をした後、地面に落ちた白いタオルに視線を移した。
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