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シャワーを浴びてさっぱりした香織。
脱衣室で体を拭いた後、機嫌よくメイドが用意してくれた服を手にしてギョッとしてしまう。
「なに! コレ」
ライトパープルの柔らかそうな生地で出来た可愛らしすぎるワンピースだった。
一応鏡に向かってそのワンピースをあててみる。
「うわっ似合わないこと、この上なしじゃん」
首をぶんぶんと振った。
ーーー無理だって。
29歳にもなってこんなフリフリ。
昭和のアイドルみたいなワンピースは、いくらなんでも着られないって。
体をタオルで巻き、ドアを開けてメイドを探した。幸いにもすぐそばにさっきのメイドが立っていた。
「あの、申し訳ないんですけど違う服をかしてもらえると有り難いんですが」
メイドは、困った顔をして今にも泣き出しそうだった。
「そちらをお出しするようにと言われましたので……どうしても、そちらを着ていただくわけには参りませんか?」
手を合わせるようにして懇願され香織は、ため息と共に仕方なくライトパープルのワンピースに着替えることにした。
「お似合いですよー。とても素敵です」
香織より遥かに若いであろうメイドは両手を合わせて嬉しそうに香織の姿を眺めた。
「これが、お似合いねー」
香織は、ふわふわのスカートの裾をつまんだ。
ーーーありえない。
ーーー似合わない。
この感じ、ブティックで気に入った服を試着した時みたいだ。
着てみたら、自分でもわかるほど明らかに似合わなかったのにも関わらず、どうしても売りたいだけの店員に褒めちぎられた時があった。あの時と全く同じ気分だった。
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