1204人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺は、翔に拾われたって前に言ったよな?」
突然、壁にもたれて立っている健人が話し出す。
「はい」
「親が事業で失敗して無理心中を図ったんだ。父親も母親も姉ちゃんも死んだ。俺だけが生き残ったんだ」
あまりにも辛く重たい話に香織は、どう返事をするべきか
迷っていた。
「俺が6歳の頃だった。それから施設で育って中卒ですぐ働き出した。肉体労働。それしかなかった。すぐに嫌になった。でも、続けた。生きるには、嫌でも働かないといけなかったからな」
健人は、黙ったままの香織を見てふっと微笑んだ。
「そんな時に拾った週刊誌に樫口翔が出てた。翔は、生まれながらに大富豪。苦労なんかしないで育って将来は社長の椅子が約束された....いわば、生まれながらのエリートだ」
「俺は、神様をのろったよ。生まれながらにどうして......こうも人生が違うんだって。不公平だって。俺は、この目で見てみたかったんだ。俺と樫口翔、たった5歳しか違わないのにこうも人生が違う男を見てみたかった」
健人は、窓の方へ体を向け窓にながれていく雨を見つめていた。
「あの日、週刊誌を握り締めて翔の屋敷の塀に寄り添うように立っていた」
健人は、思い返すようにしていたが、おもむろに窓を大きく開けた。
開け放した窓から雨と風が吹き込んできた。
「な、何するんです?中まで入ってきますって!」
窓を閉めようと香織は、窓辺によって窓に手をかけた。
その手を健人の手が阻む。
窓辺に立つ健人は、だんだん雨に濡れていった。
最初のコメントを投稿しよう!