豪雨の関係

2/8
前へ
/188ページ
次へ
「俺は、翔に拾われたって前に言ったよな?」 突然、壁にもたれて立っている健人が話し出す。 「はい」 「親が事業で失敗して無理心中を図ったんだ。父親も母親も姉ちゃんも死んだ。俺だけが生き残ったんだ」 あまりにも辛く重たい話に香織は、どう返事をするべきか 迷っていた。 「俺が6歳の頃だった。それから施設で育って中卒ですぐ働き出した。肉体労働。それしかなかった。すぐに嫌になった。でも、続けた。生きるには、嫌でも働かないといけなかったからな」 健人は、黙ったままの香織を見てふっと微笑んだ。 「そんな時に拾った週刊誌に樫口翔が出てた。翔は、生まれながらに大富豪。苦労なんかしないで育って将来は社長の椅子が約束された....いわば、生まれながらのエリートだ」 「俺は、神様をのろったよ。生まれながらにどうして......こうも人生が違うんだって。不公平だって。俺は、この目で見てみたかったんだ。俺と樫口翔、たった5歳しか違わないのにこうも人生が違う男を見てみたかった」 健人は、窓の方へ体を向け窓にながれていく雨を見つめていた。 「あの日、週刊誌を握り締めて翔の屋敷の塀に寄り添うように立っていた」 健人は、思い返すようにしていたが、おもむろに窓を大きく開けた。 開け放した窓から雨と風が吹き込んできた。 「な、何するんです?中まで入ってきますって!」 窓を閉めようと香織は、窓辺によって窓に手をかけた。 その手を健人の手が阻む。 窓辺に立つ健人は、だんだん雨に濡れていった。
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1204人が本棚に入れています
本棚に追加