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濡れネズミ
あの日は、いわゆる豪雨だった。
朝は、すごく晴れていたから傘なんて用意してなかった。
ーーーまさか、こんなに降るなんてね。
一瞬にして、羽田香織(はねだ かおり)は、ずぶ濡れになっていた。
白いブラウスは、びっしょり濡れて肌に張り付いていたし、朝はきちんとセットされていたセミロングの髪も乱れて顔にまとわりついていた。
閉店してしまったようで錆びた看板だけが残っているタバコ屋の軒先。
おそらくタバコの自販機が置かれていたであろう場所には四角い跡が3つ残っていた。
申し訳程度についているトタン屋根は所々割れているものだから、いたるところから雨が入ってきていた。
トタン屋根に跳ねる雨の音。
その音は、やけに勢いよく辺りに響いていた。
香織が恨めしそうに暗くなった空を見上げてみても雨は一向にやみそうにもない。
人通りの少ない道路のため、偶然に空車のタクシーが通るなんてラッキーな出来事も期待出来そうになかった。
ーーーゲリラ豪雨だから、そのうちやむでしょ。
バッグを胸に抱きしめ雨宿りをしていた香織。そんな香織の目の前を通った黒塗りの高級車。
バシャ!バシャッ。
高級車は派手に泥水を跳ね上げていく。跳ねた泥水は、もろに香織の体や顔にかかってしまった。
ーーー最悪!あの車ったら、なによ!もう!
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