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わざと貧相
「帰りたいのか?」
「はい、もちろん」
そう答えると翔は、何か言いたそうに口を開いた。
そして、話題を変え
「夕食は?腹は減ってないのか?」
と聞いてくる。
「ええ、大丈夫ですから」
「そうか。でも、食べていけ」
ーーー強引すぎる。
「だから、減ってませんって!」
半ばイラついた口調で言う香織を微笑んで見おろす翔に手を引かれて廊下へ出た。
すると、廊下の向こうから颯爽と歩いてくる若い男がいた。
「聞きましたよ。拾ってきたのは、そちらの彼女ですか?」
向こうから歩いてきた男は、翔にひけを取らない位イケメンな塩顔の男だった。
涼しげな瞳。
ストレートな黒髪。
中性的な魅力の溢れる男性だ。
物腰は、翔とは反対で柔らかい雰囲気だ。
翔が野生的で危険な香りがする割に淋しがりやで、わがままな野獣プリンスだとすれば、さしずめ、この男は薔薇のような花から現れた可憐なプリンスだ。
「健人、帰ってきたのか。早かったな」
翔は、微笑んで可憐な塩顔プリンスを健人と呼んだ。
「ええ、仕事が早めに片付きました。ところで、広間に大奥様の姿が見えましたけど」
「なんだと。また勝手に来てるのか。ったく」
翔は眉間に皺を寄せてから香織へ視線を移した。
「ご心配なく。私が彼女のお相手をしておきますから翔は大奥様のお相手を」
塩顔プリンスの視線が香織に注がれた。
「ああ、悪いな。健人。じゃあ少しの間、香織を頼んだぞ」
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