0人が本棚に入れています
本棚に追加
立春を過ぎてもなお、全身を縛り上げる寒気はいつも通り続いていた。しかしながら、ここ数週間にかけては、どこの雑貨屋もスーパーも、店頭のポップ書きは派手だった。通学時なんて、真っ赤なハートの装飾と顔面挨拶して、嫌でも今日が人生で一番辛い平日だということを認識させられた。
今年もまた入ってるのかな。いやぁ、困るなぁほんと毎年大量に机に突っ込まれてんだもん。
教室の前に立つと、いつもより一際賑わっているのがドア越しからでもよく分かる。ドアに手をかけ、そのまま深呼吸し、弾む心臓の拍動を落ち着かせる。
よし、行くぞ。
意を決して戸を勢いよく開け放つと、いつものクラスメイト達が黄色い声をあげた。
うるさいな、全く。
「今年もいっぱい貰ったんだね」
群衆の一人が僕の席までぴったり着いてきて、机の中のカラフルな包装紙を指さした。
「うん、ありがとう」
僕はそのズタズタに破れた大量のゴミを全て引っ張り出し、即座に床に叩きつけた。机の上の花瓶の水もぶっかけてやった。
一同豆鉄砲をくらったような顔になったのを確認したら、笑い声の波が押し寄せる前にサッサと教室を後にした。
この後早退するつもりだが、引越し前の最後の登校日、この日だけは爽快だった。
最初のコメントを投稿しよう!