【怖い商店街の話】 煮込み屋

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その中で、一軒のラーメン屋が営業していた。 のれんをくぐると、中年の厳つい大将がカウンターに腰かけて新聞を読んでいた。 店内に客の姿はない。 「いらっしゃい」 予想に反して大将は愛想よく俺たちを迎えてくれた。 俺と勝又はテーブルに座り、ラーメンとビールを頼むとすぐにビールが来て、大将はラーメンを作り始めた。 俺たちは待っている間、ビールを飲みながらあの屋台の話をした。 「あー、食べてみたかったな。煮込み」 「もう営業してないんじゃないか?」 「噂してた奴も言ってたろ。開店するは稀だって。そういう店って、期待大だよな」 「そんなの、タイミング的に無理だろ」 勝又は大将に、居酒屋の脇にある小さな屋台の事を尋ねた。 同じ商店街なら、何か知ってるだろうと。 小さな屋台の事を聞いた途端、麺をかきまわす大将の箸が一瞬止まった。 「あんたたち、あの店の客かい?」 大将は背中を向けたままそう聞いてきた。 「いえ、この商店街自体、来るのが初めてなんです。誰もいないように見えたんですけど、潰れたんですかね?」 店の中でしばし沈黙が流れた。 「やってるよ。あそこの店主は気まぐれで、しかも商店街の人間との人付き合いが悪い。だが、確かに店は営業しているし、キッチンから白い湯気を出している。営業している時は、いつもテーブルで何か食ってる客の姿を見かける」 「なんか、噂では煮込みがすっげー美味いらしくて。俺たちそれを目当てでわざわざ電車乗って来たんですけど、開いてなくてちょーショックです。大将も食べたことあります?」 勝又の言葉に怒ってしまったのか、大将は黙ったまま麺をゆで続け、店内には変な沈黙が流れた。
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