第四章~槐の呪い~

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 先生はそう言って何度も涙をぬぐった。八谷先生は、俺が知る中で一、二を争う生徒思いの先生だ。だからこそ、誰よりも菫のことが心配であるだろうし、何もしてやれない自分が悔しいのだろう。俺は立ち上がり、涙をぬぐった。 「ああ、任しとけ! 俺達は何があろうと、たとえ菫が……菫がこの街を去ろうとずっと友達だ。そしてこれからも、俺達は菫と思い出を作ってやる。もうすぐ花見だってするし、分かった、夏になれば海にも行こう! だから先生、もう一人で抱え込むな」  俺が言い終わると、香花と庵も目の辺りを拭いて立ち上がり、そしてうなずいた。 「ああそうだ! 葵の言う通り、俺達に任せておけ」 「うんっ、別に特別扱いするわけじゃないよ! 菫ちゃんは私達にとって大切な友達、それで十分だよね先生」  庵と香花が言うと、先生は再び滝のような涙を流して何度も頷いた。俺は、大人がこんな美しい涙を流すのは初めて見た気がする。 「お前ら、ありがとうな。先生は今、菫をお前たちに任せてよかったと心から思うぞ。お前たちも知っていると思うが、菫は強い。だから、きっと最後まで生き続けると思う。最後の方は菫もかなり苦しくなると思うから、お前たちが支えてやってくれ。頼んだぞ」  先生はそう言うと、職員室へ去っていった。  俺達は真っ赤になった互いの顔を見渡し、今一度強くうなずき合った。  香花はそのあとも何度も目をこすって、菫の名を口にした。香花にとっても菫がかけがえのない存在だと言うことは、一番近くで見ている俺達がよく分かっている。俺も、あの笑顔があと何回見られるのかと考えるだけで、涙が止まらなかった。  こうして俺達は菫の真実を知り、改めて彼の友であり続けると心に決めた。  そしてこの先も、槐の謎に俺達はさらに触れていくことになる。今回の出来事は、まだ序章に過ぎなかった。
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