第三章~異変の始まり~

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それから二、三分したころ、街を見下ろしていた俺達に後ろから声をかける者があった。 「二人ともお待たせ~。今日はみんな早いね」   「まったくだ。香花はともかく、葵まで既にいるとは、雨でも降るのか」  その声に俺と香花が振り返ると、笑顔で手を振る菫と、わざとらしく快晴の空を見上げている庵が立っていた。 「おい、庵! なんで俺への対応が香花と一緒なんだ」 「はははっ、お前の言いたいことは分かるぞ。香花にも来るのが早かったことをいじられたんだろ」 「ああそうだよ! 全くお前らと来たら」  さすが、この四人の中で一番頭の切れがいい庵だ。彼曰く、後ろから俺達を一目見て分かったそうだ。背中が悔しそうに見えたとか、本当止めてほしい。 「二人ともおはよ~。だよね~、葵が二番目に来るなんて珍しすぎるよね~」  香花は、せっかく過ぎ去りかけた話題を見事に掘り返した。悪気が無いというのも分かっているが、こちらもやめてほしいものだ。  俺達はそれから少しの間、公園で早春が近づいているのを肌で感じてから、いつもの路を街道へ向かって進み始めた。  道中、香花が頭上に広がる桜の木を見上げて、口を開いた。 「この辺りの桜、だいぶつぼみが膨らんできたね」 「おお~っ、言われてみればそうだなあ」  俺達残りの三人も、彼女につられて上を見上げた。  この遊歩道は別名「桜並木通り」と呼ばれ、桜の木が道全体を見下ろすように並んでいる。春に上の公園からこの道を見下ろせば、街道まで続く桃色のトンネルに見えて美しく、そこを通ると春の訪れを感じられる。  俺が昔から大好きな場所だ。
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