第三章~異変の始まり~

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「早く春にならねえかな~」  俺が思わずつぶやくと、香花が思いついたように手を叩いた。 「そうよ! 菫ちゃんのふるさと帰り記念に、春休みに高神公園でお花見しようよ」 「おおっ! そりゃあ良いな、香花」  俺が思わず声を高めると、庵と菫も笑顔でうなずいて見せた。 「やったあ! 決まりね」  俺も花見と言うものは昔から好きで、思わずテンションが上がったが、香花の喜びようは俺以上だ。  俺達の言う「いつもの場所」の真の名前は、「高神公園(たかがみこうえん)」と言う。俺達幼馴染だけでなく菫も幼いころよく遊んでいたという、言わば俺達の庭とも言える場所だ。この公園も絶景を拝めるうえに桜の木が点在していて、絶好の花見スポットでもある。 「よし! そうと決まったら、早速計画しよう」  庵の一言で俺達のテンションは絶頂に達した。香花がノートを出し、予定の日を始めとした花見のプランを練りながら、俺達は学校を目指した。    そして今日も、庵の号令で挨拶が飛び交い、俺達の一日が始まった。  菫は、はじめのうちこそ異様な存在感を放つ注目の的であり、特別な存在だったが、今は違う。 彼の人懐こい性格と、誰に対しても敵意皆無なことから、今ではすっかりクラス……いや、学校に馴染んでいる。彼の呼称も、香花が使い始めた「すみれちゃん」ですっかり定着していた。  それこそ最初は、彼の能力や見た目が跳びぬけていることに不満があるのか、あるいは羨ましいのか、あれやこれやとちょっかいを出したり、嫌味と共に絡んでくる連中もいた。 しかし菫は、浮世離れしているのか、絡んでくる奴らをガキとしか見ていないのか、元々全てを許容してしまう性格なのかは知らないが、それをものともしなかった。 向けられる嫌みを笑顔で綺麗にスルーして、彼らですら自分のペースに巻き込んでしまうので、そう言った連中も今ではいない。  俺達がやせ我慢していないか聞いても、「うん? だってあれは、彼らなりの歓迎の挨拶でしょ? だったら別に嫌じゃないし、僕の事を気に掛けてくれてむしろ嬉しい」と、晴れ渡った空のような笑顔で答えるのだ。
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