第五章~心の幸・菫の強き思い~

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第五章~心の幸・菫の強き思い~

 俺達が ”槐の呪い” について知り、心を新たに決めてから確かに先生の言う事は的中した。菫は、毎日とは言えないにしても、週に三、四回は ”重力病” の症状で倒れかけるようになったのだ。むろん俺達は、菫の事は他言していない。  心に決めたとはいえ、さすがに倒れかける菫を見るのは怖かった。先生曰く、意識を失ってそのまま二度と目覚めないケースもあったらしく、それが俺達にとって一番怖い。  それから時が流れ、四月十四日のこの日、菫の体調も良さそうなのでついに花見を決行した。桜並木通りもその名に相応しい装いへと姿を変え、高神公園の桜たちも、満開で俺達を出迎えてくれた。太陽も暖かく俺達を照らし、ここち良い風に思わずため息が出る。  俺達は相談して、握り飯とおかず、それとお菓子をそれぞれが持ち寄って、公園で花見をしようと言う事になっていた。  桜が風で程よく散る中、牛車で公園に菫が来たときは思わず息をのんだ。絵になりすぎている。  俺達は、菫が持ってきたござを大きな桜の木の下に広げ、そこに座った。何とも贅沢な時間だ。  鳥がさえずり桜が舞い、甘い風が公園を吹き抜けた。俺達は持ち寄った料理を並べて本格的に花見を始めた。菫は相変わらず、どこの高級旅館でもお目にかかれないような品ばかりで、香花はこちらも相変わらず、肉料理と果物だけは豊富である。  俺は菫の持ってきたものに舌つづみをうった。どれも上品な和食だが、優しい味で実に美味しい。 「菫、お前のうちの料理はやっぱ美味いなあ」 「ああ、まったくだ! できるならば今度、レシピを教えてほしい」  俺に続いて庵も驚きながらその味を称賛した。レシピを聞いたのは、庵は料理が趣味だからである。
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