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第三章~異変の始まり~
俺達の住む雪華海街に、金髪着物の美少年こと槐 菫が帰ってきてから、早一か月が経とうとしている。
本日二月十八日も、安定の厳寒の中で一日が始まった。まあ確かに寒いと言えばその通りで、俺は今朝も布団と別れるのが苦痛だったが、菫に出合った日と比べると心なしか少し寒さが緩んだと思う。
俺はいつも通りしぶしぶ暖かい愛する我が家に別れを告げ、「いつもの場所」へ向かっている。今朝は日光が当たるとかなり暖かい。
「いつもの場所」とは、菫が言い出して俺達四人の中に定着したものだ。俺達は高神住宅地を下り、街道へ出る時は歩行者用の遊歩道を使う。そう、いつも使っている急坂だ。
街道へ降りる道は実はもう一つある。住宅地の真ん中を貫く主要道路と、街道が直結している車が住宅地を降りるときに使うものだ。勾配を緩やかにするためかなり大きく迂回していて、人間が降りるとなるとかなり時間がかかってしまうのだ。
遊歩道への道は一つしかなく、その入り口の近くの公園でよく合流するため、自然と俺達の集合場所になっている。
この場所は高い崖の上にあるため、下を見下ろした時の景色は最高だ。
俺が公園に着くと、香花が一人朝日に輝く海を見下ろしていた。
「香花、おはよ」
「あら葵、おはよ~。二人目が葵だなんてちょっと意外ね」
「おい、そりゃあどういう意味だ」
「だって、葵が最後に走ってくるのが普通でしょ」
「お前なあ、失礼だぞ全く」
香花は、抗議する俺を見てくすくすと笑った。確かに彼女の言っていることは虚実ではない。何と言っても、俺の天敵は寒さなのだから。今日余裕を持って家を出られたのは、例年より早く寒さのピークが去ってくれたからだ。
だからと言って、奇跡が起きたと言うような反応はどうかと思う。
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